• Top
  • Conversation

Conversation

家具のデザインから、未来のデザインへ

Takasu Gaku Design and Associates
代表 デザイナー 高須学

×

ベストリビンググループ
代表 中村広樹

沖縄の大規模ホテルプロジェクトで初タッグ

中村:出会いは10年ほど前になります。とある家具ショップからオリジナルソファのお話を打診いただき、そのときのお客様側のデザイナーさんが学さんでした。弊社でサンプル試作をつくった際、チェックのために来社いただいたのが最初でしたね。

高須さん:はい、その家具ショップがお声掛けをされていた3社のなかの1社がベストリビングさんでした。各社がサンプル提案されるなか、御社は飛びぬけて品質が良かったことをよく覚えています。ただ決裁権はクライアントさんにありましたから、諸条件との兼ね合いがあり、契約までには至りませんでしたね。

中村:残念ながら力及ばずの結果でした。そこから時間を経て、5年ぐらい前に再会しました。

高須さん:ベストリビングさんの元社員の方や、当時、日田市に在住されていた建築家さんなど、共通の知人がいると判明して話が盛り上がり、プライベートでもお付き合いさせていただくようになりました。

中村:ご縁ですね。最近ではビジネスでもお声をかけて頂きまして、沖縄での大きなプロジェクトでTakasu Gaku Design and Associatesデザインのソファを数多く制作させていただきました。

高須さん:弊社は過去にもいろいろなホテルの備品や家具のデザインを手掛けてまいりましたが、今回はベストリビングさんにお願いしました。
2019年の夏前に沖縄にオープンする大手ホテルの案件です。このプロジェクトでは2月に先行して、オープン後の客室をそのまま再現したモックアップルーム(モデルルーム)をつくり、その部屋のためのソファを一脚だけ先に納品し、実際に空間に配置してもらいます。それをホテル関係者様などが検証されて、本採用するかどうかを決定。採用が決まると5月末に数十セットのソファが本納品されるという流れになっています。木部塗装の色やファブリック生地なども全て別注でホテル様のオリジナル。宿泊されるお客様はよく見られていますので、他のホテルで使われていた生地が別のライバルホテルでも使われているというのはホテル様側としてはあってはならないというお考えです。

中村広樹
ホテルのオープンまでの流れ
ホテルのオープンまでの流れホテルのオープンまでの流れ
高須学さん

中村:日本国内でインテリアを扱う会社は沢山ありますが、ハイエンドなホテル納入業者として最終選定の土俵に残れるのは数社しかないと言われています。厳しいプロの目で、ホテルのコンセプトにあっているかはもちろん、品質や使い心地、手入れのし易さ、耐久性、安全性を有した防炎機能など総合的に比較検証され、厳選されるそうですね。そんな状況のなか、弊社をお選びいただいた決め手はなんだったのでしょうか?

高須さん:このホテルは宿泊料金もかなり高額設定のラグジュアリーなリゾートホテルなので、利用されるのも当然、アッパー層のお客様になります。ターゲットプロフィールは世界各国の著名メーカーやブランドのラクジュアリーな家具に馴染みがあるであろう方々、ただし、プロジェクト用のソファゆえ、超高級ブランドのものを全ての部屋に入れることはありません。そこで日本国内で一貫して作ることができれば、海外から調達するよりもローコストで質のいいオリジナルを用意できるのではないかと考えました。そうして数社の候補からセレクトすることになり、ベストリビングさんに白羽の矢がたったわけです。

中村:弊社としても学さんの想いを確実に汲み取るにはどうすればいいか悩みました。そこで打ち合わせに来られたときに、話をしやすい材料があった方がいいと思い、「モックアップのためのモックアップ」をつくりました。何かしら基準となるものがないと、いいも悪いも判断できませんので、実際のモノを見ながら、基準を進めていこうと。高須さんにご意見を伺う場には当然、弊社の製造責任者も同席するのですが、彼にとっても非常に緊張を強いられる瞬間でしたね(笑)。ただ私とその製造責任者とが“ニュアンス”を理解していても、実際にモノを製造する現場のスタッフが理解できていなくては意味がありません。私の役目はそこにあり、学さんのご意見を製造する現場スタッフにわかりやすく翻訳して伝え、間違いのないイメージを共有すること。そうしてベストな製造環境をつくりあげてから、クライアントにプレゼンするモックアップルーム用本番のソファの製作に繋げていきました。図面通りというよりも頭の中にあるであろうイメージ通りをめざし、がんばったというのが本音です。

高須さん:確かにニュアンスが伝わるかどうかに加え、想いを一つにできるチームワークも重要ポイントとなりますね。今回は特にモックアップを作ってくださったことで、ものすごく話を進めやすかったです。ぶれることなく方向性を決めることができました。私の頭の中には座り心地を想定した基準が出来上がっていましたので、話もスムーズに進み、実際できたものは「まさにこれだ!」と叫びたくなるほど、ものすごくよかったです。

中村:クライアントに実際に座って確認いただいたのは沖縄で、でしたよね。私たちもOKの連絡をもらうまではドキドキでした。多くの検査工程や、ホテル関係者様や大手設計事務所など、厳しい業界のプロフェッショナルの方達によるチェックをクリアできた経験は弊社にとって大きな財産。このプロジェクトに携わらせて頂いた事、改めて感謝申し上げます。

ソファは空間を構成する重要なパーツ

中村:学さんは空間全体のデザインに加え、ショップインテリアや住空間における家具プロダクトなど、空間から家具・日常品まで幅広い領域でデザイン活動を行っておられます。両者をデザインされるうえで、こだわられていることはありますか。

高須さん:プロダクトは良いモノを作りさえすれば結構、ダイレクトにお客様に伝わります。あとはコストとのバランスを考えればいい。良いモノを良いモノとして認識していただきやすいジャンルであると思います。一方の店舗や空間のデザインに関しては、良いか、そうではないかの判断がクライアントではなく、エンドユーザーに委ねられます。例え、感じのいいレストランを作って、料理もおいしくて、自分たちが満足していても、流行らなかったら終わりという、モノとは違う判断基準がそこに発生します。

中村:私も空間の中における家具は主役だとは思っていません。ソファは空間のなかの主役に近い存在ではあると思いますが、あくまでも主役ではないので、全体の雰囲気を醸し出すパーツのひとつであるととらえています。とはいえ、雰囲気を壊さないために脇役として黒子化するのではなく、主役に近付けていく。そのために私がモノ作りを行うときに大切にしているのはヒアリングです。角度の意味、パーツの意味、寸法の意味など、図面に書かれていることは何らかの意味があるはずです。それを理解しないままつくってしまうと、モノの役割とデザインがミスマッチを起こしてしまいます。

高須さん:特に大きなプロジェクトになるほど、関わる人も多くなりますので、全員の意思の疎通、イメージの共有が重要になりますね。イメージやコンセプトの具現化には、中村さんがおっしゃる通り、数値の意味やデザインの意味、ストーリー性を深く読み込んだモノ作りが必要です。そこにデザイナー、ブランドとしてのカラーや“らしさ”を加え、自分たちの価値も表現しなければなりません。

学プロジェクト

中村:弊社も特注やODMだけではなく、私どもの培ってきた技術を我が社オリジナルの商品として提案していきたいという想いがあります。我々は誰とタッグを組むべきなのかという思いを持ちながらいろいろな人とおつきあいをさせていただくなか、それはやはり高須学だと確信しました。なぜならば、先ほどの話にもあったように学さんはプロダクトのデザインだけではなく、全てを含めたトータルなデザインができる方だからです。ソファを主役としてデザインしていくならば、たとえ奇抜なデザインをしてもOKでしょうが、私たちの主戦場はコントラクトゆえ、空間の中の一つのパーツをつくっているわけです。他のパーツとも違和感なく、馴染んで鎮座しているものをつくるためには、必ず空間全体を捉え、パーツの役割や存在する意味を考えていかなければなりません。そういう意味で、弊社の商品をデザインしていただきたいと考えるようになりました。

高須さん:空間デザイナーや建築家は、ある意味エゴイスティックです。自分が思い描いたものをつくりたいという欲望がある。例えば、ル・コルビュジエやフランク・ロイド・ライトといった有名な巨匠たちは自分が作った空間では必ず、家具も自分のデザインによるものを構築します。というよりも、かつてはそれが当たり前でした。
今は、空間はデザインするものの、家具はどこかのメーカーのものを選ぶという場合も多々あります。
デザイナーのエゴで言わしてもらうならば、自分が空間をデザインする場合は、家具も全て自分がデザインをしたい。それは、たとえ巨匠の椅子であっても、自分の空間の中ではノイズとなるからです。私はノイズが許せないから自分でデザインをします。しかし空間デザイナー全てが同じかというとそうでもなく、空間のデザインはできるけれど、家具の専門知識、経験が豊富でない方に対しても、ベストリビングさんは、デザイナーの欲求をうまく満たしてくれる存在です。

中村:おっしゃる通り、コントラクト業界のなかで他のメーカーさんができないこと、ベストリビングにしかできないことをやっていかなければならないと考えています。私たちは365日毎日、九州の片田舎にいながらメールやFAXで一流デザイナーさんや設計士さんからの図面やご要望、そして情報を頂いております。それをカタチにし続けていることは、私たちの財産です。蓄えてきた財産を、学さんの力を借りて、ひとつひとつのプロダクトに落とし込んでいければ、新しい家具のカタチを発信のできると思っています。デザインだけではなく、つかい手のご意見、そして創り手のノウハウ、三方の側面を合わせてカタチにすることができれば、最強なプロダクトとなるはずです。

高須さん:中村さんは決断が明確で、頭の回転も早い、大人数の社員を束ねて、会社を動かしていく人徳もあります。家具の知識は私よりも豊富で、きちんと勉強もされていて、尊敬しています。私たちも日々ものすごい仕事量をさばいているなか、ベストリビンググループには安心して依頼を投げることができます。勉強もしない、決断が遅いメーカーさんは安心ができません。長く一緒に仕事をし続けていけるパートナーは、同じ未来、同じビジョンを見る事ができる方でないといけないと思っています。

中村:ほめられすぎですね(笑)モノをつくるだけが私たちの役目ではない。ぜひ一緒に豊かな未来を創っていきましょう。